長野県立科町土屋家文書保存・調査活動
代表理事 西村 慎太郎
2020.4.1
【契機】
立科町土屋家文書は中山道芦田宿本陣の家であり、資料の多くは2003年に長野県立歴史館に寄託されている(芦田宿本陣土屋家文書)。
芦田宿は本陣1軒・脇本陣2軒・旅籠6軒で、本陣土屋家の建物は当時のまま遺されている。中山道の下りは間宿である茂田井を挟んで望月宿(現在の佐久市望月)へ1里8町、上りは笠取峠を越えて長久保宿(現小県郡長和町)へ1里6町の位置にある。
同家文書に関わることになった契機は、2014年11月20日に長野県立歴史館で開催された長野県史料保存活用講習会において当会代表理事・西村慎太郎が「地域歴史資料保全の現状と課題」という講演を行ったことにはじまる。その際、立科町教育委員会の山浦智城氏が参加しており、「町でも歴史資料の重要性を講演して欲しい」と依頼され、翌2015年3月14日に立科町中央公民館視聴覚室で「地域に残る歴史資料の保存と活用」を開催し、全国的な歴史資料散逸の状況と立科町がある長野県佐久地域の歴史資料保存に関する取り組みを講演した。その講演に参加していたのが中山道芦田宿本陣の家である土屋省吾氏であり、「本陣の修築の際に壁裏から裏張りとなっている多くの古文書が発見されたが、その保存をどのようにしたら良いか」という質問を受けた。教育委員会の山浦氏とともに大量の裏張り文書を確認し、当会として保存・調査を行うことをその場で決定し、同年7月10日〜12日に第一回目の作業をはじめた。
【作業と文書の概要】
2020年3月末日までの間で作業は7回行われた。
@2015年7月10日〜12日 参加者10名
A2015年11月14日〜16日 参加者9名
B2016年3月26日〜28日 参加者13名
C2017年3月11日〜13日 参加者13名
D2018年3月17日〜19日 参加者11名
E2019年3月16日〜18日 参加者7名
F2020年3月14日〜16日 参加者8名
作業は、裏張りとなっている一点ごとに番号を付与し、スケッチとし撮影をした上で、裏張りを剥がし、さらに、文書一点ごとに撮影と保存処置をするといったものである。
今回の裏張りは襖のみならず、本陣の壁紙であったため、かなりの大きさになっている。
一枚の裏張りの全体に番号を付与し、写真撮影とスケッチを行う。
次に精製水とエタノールで溶液を作り、丁寧に剥がしていく。剥がし終わった文書はベニヤ板で乾燥させ、その後、写真撮影をして、封筒に収める。
【裏張りの内容について】
2020年3月段階で、2500枚近い裏張り文書を剥がしたが、主に@手習い、A芦田村土地支配に関わる横帳、B人馬継立に関する竪帳及び横帳の3種類に分類できる。このうち、横帳の帳外れ文書について、長野県立歴史館寄託の芦田宿本陣土屋家文書と比較したところ、1日ごとの人足・馬の書き上げである「人馬賃銭請払帳」「上下人馬日〆帳」、周辺村落から人足・馬の書き上げである「助郷人馬元附帳」であった。
竪帳のものについては、1日単位で芦田宿を公用で通過した人物・荷物、それに関わった人馬を書き上げた帳面であった。以下のような記述である。
「
正月十八日
一、上 遠山勘右衛門様御飛脚 本馬壱疋
一、下 紀州中村善六様 本馬三疋
〆馬四疋 上 本馬壱疋
下 本馬三疋
右之通御座候、已上、
問屋祐左衛門(印)
年寄助右衛門(印)
」
【成果の還元】
2015年からの作業成果を地域の方がたと共有するため、2017年3月より年に1回立科町教育委員会主催「すずらん学級」で報告会とワークショップを開催している。開催したすずらん学級は以下の通りである。
・2017年3月12日
下張り・裏張り文書の保存、その実践 ―芦田宿本陣・土屋家の壁の中の歴史遺産―
(報告:西村慎太郎。資料紹介:真下卓也・吉竹智加。ワークショップ:杉山晴香・平野暁子)
・2018年2月18日
芦田宿本陣の下張り・裏張り文書の保存と実践
(報告:西口正隆・西村慎太郎。資料紹介平岩渉。ワークショップ:杉山晴香)
・2019年3月17日
芦田宿本陣に遺された裏張りの古文書たち ―その歴史と裏張りはがし体験―
(報告:西村慎太郎。ワークショップ:杉山晴香)
・2020年3月15日
芦田宿本陣に遺された裏張りの古文書たち ―その歴史と裏張りはがし体験―
(報告:西村慎太郎。ワークショップ:杉山晴香) ※新型コロナ感染症予防のため中止
【謝辞】
立科町土屋家文書保存・調査活動に当たっては、立科町教育委員会の皆さま、所蔵者である土屋省吾様には諸事にわたって御協力頂いております。心より御礼申し上げます。