東京都青梅市朱文筵文庫調査・保存活動


代表理事 西村 慎太郎
2009.7.9

 朱文筵工房は東京都青梅市の漆芸工房。漆芸家で東京芸術大学名誉教授の故・磯矢阿伎良氏(1904〜1987)による工房です。磯矢阿伎良氏は1941年に同地に朱文筵工房を構え、創作活動に打ち込んでおりました。
 その朱文筵工房には和本154点が遺されています。伝来状況は不明ですが、磯矢家に代々伝わって来た史料だけでなく、磯矢阿伎良氏の母・みや氏の実家に伝わったと思われる史料も遺されております。磯矢みや氏の実家は幕末の外国奉行竹本正明の末裔に当たります。
 当法人では2度にわたる保存・調査活動を実施致しました。

第一次調査:2009年3月10日(参加者2名)
第二次調査:2009年6月27日(参加者5名)

 調査方法は次のとおりです。

1:配架されている順番に従って、各史料の番号を付与。
2:ワイピングクロスなどによるドライクリーニング。
3:中性紙封筒への封入。
4:各史料の目録を作成(目録の項目については後述)。

 このうち、第二次調査までで140までの目録作成作業が終わりました。

 今回は和本ばかりであるため、当法人が用いている目録の項目では不備が出てしまう恐れがあったため、改めて和本用の目録用紙を作成致しました。その項目は次の通りです。

・表題
・序・跋
・刊記・奥付・奥書
・大きさ(cm)
・丁数
・形態
・備考

 表題は外題(あるいは題箋題)・内題・見返題・版心題・小口題・尾題などを記しました。序・跋、刊記・奥付・奥書は年月日や執筆者が記載されている場合、版元や識語が記されている場合、その部分のみを記しました。

 内容としては近世から明治期前半までの写本・刊本が多く、特に茶道具や茶室に関する史料が多く遺されています(調査の終えた140点中46点)。この茶道関係は外題・内題が記されていない史料が多く、どのような性質のものであるかは今後さらなる検討が必要です。但し、聞き取り調査によれば、阿伎良氏の祖父・宗庸氏が武者小路千家の茶人であったことから、宗庸氏以来の蔵書である可能性が高いものと思われます。

 興味深い史料として次の3点を紹介したいと思います。

 第一に「当時珍説要秘録 坤」(78。以下、括弧内は文書番号)。宝暦6年(1756)成立で、著者は馬場文耕です。現在『叢書江戸文庫 12 馬場文耕集』(国書刊行会、1987年)にも収録されています。この史料はそのうち巻六から巻十に該当する写本です。18世紀中ごろの幕臣や大名の噂話を記したもの。
 第二に「康元二年三月日次記事」(133)。康元2年(1257)の吉田経俊『経俊卿記』の写本で「町尻蔵本」と記されています。いつ頃の写本なのかなど今後検討が必要ですが、破損が著しいため、修復の必要があると思われます。
 第三に「昔話」(135)。享保18年(1733)の年記があり、近世初頭の江戸の様相などを記した史料です。類本として東京大学史料編纂所に謄写本がありますが、その他の類本は確認できておりません。

 また、多くの史料に蔵書印が押されています。最も多いのは「五十夜文庫」印で、大小2種類が確認でき、印章本体も現存しています。おそらく、「いそやぶんこ」と読むものと思われます。その他の蔵書印として「藤園」(20「増補諸宗仏像図彙」など)、「女子高等師範学校図書室」(31「萬金産業袋」など)、「座田家無尽蔵」「座田家蔵」「北葵文庫」(いずれも33「倭姫世記御鎮座伝記」)など多くの蔵書印が確認できますが、これらについては現在調査中です。

 今後、修復作業、報告書や史料集の刊行も視野に入れております。
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